自分の半身を求めて…

【 ひとりごと 】

心の原点

私には落ち込んだ時に読むと元気が出る書籍があります。

それは村上春樹さんの『海辺のカフカ』です。

15歳の誕生日に《僕》ことカフカ少年が家を出て遠くの知らない街に行き、とある四国の図書館の片隅で暮らすようになって、様々な人と出会い大人になっていく。

ざっくり説明するとこういうあらすじになるのですが、

そこは村上春樹ワールド全開、とても魅力的で癖の強い登場人物や暗喩にあふれた作品になっています。

村上春樹作品は色んな方が解説などを出されているので、内容をより詳しく深堀したい方はそちらを読むことをお勧めします。私が今更ここで薄っぺらい素人解説を展開するより、よほど身になることが書かれていると思います。

私は文学的な難しいことは分からないので、

・小説は全体的な物語の雰囲気や読後の余韻が自分の好みに合っているか

・読んでいて登場人物や情景が脳裏に連想できるか

が非常に自分の中で重要な要素だったりします。

どれだけ評判の高い小説でも頭の中に情景が浮かんでこなければ最後まで読み進められません。

そんななか村上春樹さんの『海辺のカフカ』は終始、登場人物や情景が浮かびっぱなしの小説でした。

物語の中に出てくるクラッカーや水、タバコ。そういうものの細部まで連想できるほどです。

私は村上春樹作品の中に出てくる小道具というか、そういう生活用品や日用品または食品そういうものの描写やワードの選定がすごく好きです。

そういう小道具たちによって登場人物をリアルにそこに存在させ引き立たせてくれていると思います。

かくゆう私も村上春樹さんの別の作品で「ローファット牛乳」が出てきてから、自分が低脂肪乳を買うとき「私は今ローファット牛乳を手に取った」と頭の中で文章化し悦に入っていた時期がありました。

話が脱線してしまいましたが、個人的に『海辺のカフカ』は【再生と出発の物語】だと思っています。

最後まで読み終わると、「よし!もう一度頑張ろう」という気持ちにさせてくれ、

心の原点に立ち返らせてくれる物語です。

海辺のカフカの大好きな登場人物

村上春樹さんの『海辺のカフカ』の中でも一番好きな登場人物が

カフカ少年が暮らすことになる図書館の司書の《大島さん》という人物です。

大島さんは初めて図書館に赴いたカフカ少年に気さくに話しかけてくれます。

図書館で暮らすようになるまでに何度か本を読みに来たカフカ少年に暗示のような興味深い昔話や物語をいろいろ話してくれたりします。

希望をくれたセリフ

大島さんがカフカ少年に語った話の中にこういう内容がありました。

《昔の世界は男と女ではなく、男男と男女と女女によって成立していた。つまり今の二人分の素材でひとりの人間ができていたんだ。それでみんな満足して、こともなく暮らしていた。ところが神様が刃物を使って全員を半分に割ってしまった。きれいにまっぷたつに。その結果、世の中は男と女だけになり、人々はあるべき残りの半身をもとめて、右往左往しながら人生を送るようになった》

 村上春樹『海辺のカフカ(上)』新潮文庫、平成17年、第5章79頁

古代ローマの神話の神様の話をしていた時の内容だったと思います。

当時の私にはこの考え方はとても衝撃的で救いのある内容でした。

おとぎ話のような考えかもしれませんが、

どこかに自分の過去に引き裂かれた半身がいると思うと自分のセクシャリティが抱える悩みが少し薄らいだ気がしたのです。

カップルや夫婦間で相手方との関係をパズルのピースに例えることはよく聞きます。

自分の凹にはまる凸を持った存在がどこかに存在する。

そのパズルのピースには色も性別も関係ないのかもしれません。

古代の神話の世界であったとしても

男男  男女  女女

そういう存在があった。

今は真っ二つに引き裂かれてしまったけれど、

どこかにその自分の半身が存在するかもしれない。

私たちは一生涯かけて、その過去に引き裂かれた自分の半身を求めて右往左往している。

当時自分のセクシャリティに悩んでいた私には、そう考えることで生きることに希望が持てたような気がしたのでした。

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